国際決済銀行 (BIS) の年次報告書 和訳
国際決済銀行 (BIS) の年次報告書 2025-6-29
https://www.bis.org/publ/arpdf/ar2025e.htm
https://www.bis.org/about/areport/areport2025.htm
https://www.bis.org/about/areport/areport2025.htm
アグスティン・カルステンス総支配人
年次報告書の発行に寄せて
年次報告書の発行に寄せて
項目Ⅰの和訳
I. 不確実性と分断の中での安定の維持
① 主なポイント
② 序論
③ ソフトランディングから混乱と不確実性へ
④ 貿易政策が中心的課題に
⑤ 関税と不確実性が経済見通しに影を落としている
⑥ コラム1-A:貿易赤字と関税:関税が不十分な理由
⑦ 今後の道筋における脆弱性
⑧ コラム1-B:貿易制限は新興国における対外直接投資を阻害し、経済成長を低下させる
⑨ 真の脆弱性
⑩ 財政の脆弱性
⑪ マクロ金融の脆弱性
⑫ コラム1-C:インフレの急上昇は家計のインフレ期待に影響を与えるか?
⑬ より不確実で分断化された世界に対応するための政策
⑭ 構造政策
⑮ 財政政策
⑯ 規制と監督
⑰ 金融政策
⑱ 脚注(一部分のみ)
岐路に立つ:変容する世界における政策課題
Ⅰ. 不確実性と分断の中での安定の維持
① 主なポイント
・不確実性の高まりと長年築かれた経済関係の崩壊により、世界経済の成長見通しは悪化しました。金融市場は、頻繁かつ予測不可能な貿易政策発表を受けて、大きな変動を経験しました。
・緩やかな経済成長と緩やかなインフレというベースライン見通しは、政策の不確実性の高まりによって不透明になっています。また、実体経済と金融システムにおける既存の脆弱性は、ショックや政策の不利な転換による悪影響を増幅させる可能性があります。
・政策当局は、財政状況の持続可能性を確保し、様々な金融仲介機関間の公平な競争条件を通じてマクロ金融の回復力を高め、物価安定を優先することで、安定化の力として行動する必要があります。
② 序論
世界経済の見通しはここ数カ月で、はるかに不確実かつ予測不可能なものとなっており、ソフトランディングが見えていた前年の比較的楽観的な見方とは大きく異なるものとなっている。長年にわたる政治・経済関係が疑問視される中、貿易摩擦は世界経済の様相を一変させる恐れがある。米国の新たな貿易政策は、その範囲と影響が不明瞭なため、経済の不確実性を危機に瀕する水準にまで高め、金融市場のボラティリティを急上昇させている。その結果、世界経済の成長見通しは下方修正され、各国のインフレへの影響は様々である。これらの動きは、既に深刻な脆弱性に直面している世界において起こっている。 貿易関連の課題は、経済の分断と保護主義への既存の傾向を強め、多くの経済圏で10年にわたる経済成長と生産性成長の低下をさらに悪化させる可能性が高い。
高齢化と労働力不足の深刻化と相まって、貿易の分断は供給の柔軟性をさらに低下させ、経済がインフレ圧力にさらされやすくなる可能性がある。一方、いくつかの国では、高い公的債務が金融システムを金利上昇に対して脆弱にし、政府の悪影響への対応能力を低下させている。これらの課題に加えて、金融仲介が銀行から非銀行金融機関(NBFI)へ、そして公的債務の資金調達へと移行したことで、債券市場の流動性リスクが高まり、伝統的な銀行システムの外で金融安定リスクが顕在化する可能性が高まっている。
これらの課題に対処するには、政策担当者による多方面にわたる努力が必要である。 構造政策は、生産性の低成長に対処し、経済の生産規模拡大と資源再配分能力を向上させる必要がある。国内外の貿易障壁の撤廃は、進行中の貿易紛争による損害を相殺するのに役立つだろう。構造改革を支援することに加えて、財政政策は債務の持続可能性を確保し、必要に応じて経済を支える余地を回復するために調整する必要がある。金融システムの規制と監督は、構造的な問題から生じる金融リスクの変化する性質を考慮に入れなければならない。
本報告書の第II章で述べた金融システムの変化。この文脈において、金融安定に同様のリスクをもたらす銀行やその他の金融仲介機関に対しては、一貫した規制枠組みが必要である。最後に、金融政策については、近年の経験は、持続可能な成長の礎として物価安定が極めて重要であることを強く思い起こさせるものとなった。不確実性が高まる時代において、この基盤を維持することはこれまで以上に重要である。これらの課題に対処するためには、幅広いシナリオにおいて合理的な結果をもたらす信頼できる枠組みに基づいて政策を実施する必要がある。
政策立案者は、政策を評価するための明確な目標を設定し、それを達成するための適切な手段を選択しなければならない。政策立案者は、自らの行動と決定を国民に明確に説明し、計画通りに進まなかった場合には説明責任を果たす必要がある。これらの枠組みの強化を目的とした定期的な見直しは、変化する環境下においても、枠組みが目的にかなうものであり続けることを確実にするのに役立つ。 目標達成への揺るぎないコミットメントは、政策立案者や制度に対する社会の信頼を育み、最終的には講じられた対策の有効性を高めることになるでしょう。
③ ソフトランディングから混乱と不確実性へ
2025年初頭まではソフトランディングの軌道に乗っているように見えた世界経済の見通しは、高まる不確実性によって影を潜めています。2024年後半には、インフレ率は中央銀行の目標に収束し、緩やかな経済成長が続くと予測されていました。しかし、現在の世界経済は、貿易の混乱と地政学的緊張の高まり、そして金融市場のボラティリティの高まりが特徴となっています。
世界経済は、ここ数ヶ月を特徴づけている混乱が起こる前は、緩やかな成長率を維持していました。2024年の世界GDP成長率は3%強で、2024年半ばの予想と概ね一致しています(グラフ1)。
2024年の世界経済成長は全体として安定するという見通しの下に、各国・地域の経済状況には大きなばらつきが見られました。先進国・地域(AE)の中では、米国が際立った好調な成長を見せ、2024年の経済成長は再び予想を上回る上振れとなりました。対照的に、欧州と日本の成長は低調でした。こうした違いの大きな要因は、米国消費者の回復力でした(図2.A)。米国では、家計消費はパンデミック前のトレンドを上回りましたが、貯蓄率は低下しました。一方、他のほとんどのAEでは、家計ははるかに慎重で、貯蓄率は概してパンデミック前の水準を大きく上回っていました(図2.B)。
新興市場国・地域(EME)の経済動向も様々でした。多くの東アジア諸国では、輸出量の堅調な伸びが国内需要の低迷を相殺しました(図2.C)。 中国では、製造業の生産と輸出の力強い拡大により、不動産セクターの継続的な調整にもかかわらず、当局が定めた2024年のGDP成長率5%という目標を達成することができました。一方、インドはパンデミック後の異例の好調な経済成長の後、成長が鈍化しました。
ラテンアメリカでは、ブラジルを除き、経済活動は概ね低調でした。ブラジルでは、逼迫した労働市場と財政移転によって力強い国内需要が支えられていました。労働市場の状況は2024年後半までに概ね正常化しました。失業率は、パンデミック直後の非常に低い水準と比べると上昇しましたが、概ねパンデミック前の水準を下回っています。労働市場のバランスが回復するにつれて、名目賃金の伸びは概ね鈍化しましたが、パンデミック以前よりも堅調に推移しました。唯一の例外は日本であり、名目賃金の伸び率は引き続き上昇し、数十年ぶりの高水準に達しました。 インフレ率は引き続き緩和し、ほとんどの国で中央銀行の目標値に達するか、それに近づいている(図3)。しかし、ブラジル、チリ、コロンビアなど一部のラテンアメリカ諸国では、民間需要、規制価格の調整、為替レートの下落といった国内要因の影響で、目標達成に向けた進捗が鈍化した。
対照的に、東アジアではインフレ率は概ね目標値以下で推移し、特に中国ではインフレ率が非常に低い水準で推移している。インフレ率が目標値に達するか、目標値に近づく中、ほとんどの中央銀行は過去1年間、経済成長を支えるため金融政策を緩和した(図4.A)。同様に、中国人民銀行は政策スタンスを「慎重」から「適度に緩和的」に調整した。
この広範な緩和傾向における2つの重要な例外は、ブラジル中央銀行と日本銀行である。ブラジル中央銀行は、高インフレの中でインフレ期待がデアンカーしているという証拠に対応して急速に金利を引き上げ、日本銀行は政策金利を約20年ぶりの水準である0.5%に引き上げた。
政策金利の引き下げに加え、いくつかのAE中央銀行はバランスシートの縮小を継続した(図4.B)。これは主に、償還を迎える国債の受動的なロールオフを通じて、国債ポートフォリオを縮小することによって行われた。このプロセスは概ね順調に進んだ。
経済のソフトランディングが見えてきたため、金融市場は2024年から2025年初頭にかけて力強く推移した。米国では、2024年を通しての堅調な経済成長に加え、次期政権による規制緩和と減税への期待から、株式市場は上昇した。同様に、欧州の株式市場は、銀行収益の改善などに関連した楽観的な見方の高まりに牽引され、2024年後半に急上昇した。 この楽観的な見方は、ドイツが国防関連支出に対する憲法上の債務制限を緩和し、今後12年間でGDPの10%を超える5,000億ユーロをインフラ整備に支出することを約束したというニュースによってさらに強まった。市場にとって好ましい状況と一致して、信用スプレッドは歴史的基準と比較して概ね縮小した。一方、米ドルは2024年後半にほとんどの通貨に対して上昇し、これは米国経済の比較的堅調な経済ファンダメンタルズを反映している。新興国経済の見通しの鈍化と金価格の持続的な上昇だけが、この動きと合致していなかった。
④ 貿易政策が中心的課題に
2025年初頭の比較的良好な世界経済見通しは、主要な政策転換と金融市場のボラティリティの高まりによって影を潜めた。 1月に米国がカナダとメキシコに対して大幅な関税を課すと発表したことは、多くの人にとって驚きでした。その後数ヶ月にわたり、製品別および国別の関税提案が相次ぎ、4月初旬には全ての貿易相手国からの米国輸入品に対する広範な関税の発表に至りました。これは世界経済にとって画期的な出来事であり、需要を弱め、世界のサプライチェーンを混乱させ、世界貿易システムを不安定化させる可能性があります。
4月の提案には、ほぼ全ての国に対する少なくとも10%の「相互」関税が含まれており、二国間の貿易黒字が大きい国には大幅に高い税率が課されました。これらの措置は報復措置への懸念を引き起こし、米中間の緊張激化の連鎖として現実のものとなりました。 関税は、米国から中国への輸入品の大半に対して145%、中国から米国への輸入品の大半に対して125%に達し、ピークを迎えました。その後、米国政府は関税案の規模と範囲を縮小し、一時的な停止、特定品目の適用除外、そして選ばれたパートナーとの控えめな貿易協定を導入しました。関税率が一時的に引き下げられ、更なる交渉が可能になったことで米中間の緊張は緩和し、金融市場の懸念が和らぎ、世界経済の下振れリスクも軽減されました。
その後、5月末には、米国政府が現行法に基づき課した関税の大部分を無効にするという米国の裁判所の判決が下され、関税が最終的にどのように実施されるのかという点に新たな疑問が生じました。 頻繁な政策転換、更なるエスカレーションや法的課題のリスク、そしてこれほどの規模の政策転換に関する歴史的前例の不足を考えると、これらの政策変更のより広範な影響は依然として不透明です。
米国では、関税導入に加えて、政策の方向性と安定性に対する懸念を高めるいくつかの主要な政策変更が実施されました。政権は移民政策、規制政策、財政政策にも大きな転換を導入しましたが、中央銀行の独立性に対するコミットメントにも疑問が生じました。政策措置そのものに加え、発表、調整、そして政策転換の繰り返されるサイクルは、不確実性と変動性の雰囲気を醸成し、世界経済の課題を複雑化させています。
不確実性の一般的な指標は急激に上昇しています。 貿易政策の不確実性は2025年上半期に過去最高を記録し(グラフ5.A)、より広範な経済政策の不確実性も地域間でばらつきはあるものの上昇した(グラフ5.B)。さらに、複数の大陸で紛争が続く地政学的状況は、予測不可能な出来事が起こりやすく、進行中の貿易摩擦による課題をさらに悪化させる可能性があります。
頻繁な政策変更は金融市場の著しい変動につながりました。4月初旬に発表された相互関税が市場の予想を上回ったことで、世界の金融市場のボラティリティは劇的に上昇しました。政策の不確実性の高まりにより市場は既に緊張状態にあったものの、投資家がリスクの高いエクスポージャーを削減しようと躍起になったため、ボラティリティ指標はパンデミック以来見られなかったレベルにまで急上昇しました(図6.A)。世界中の株式市場は急落し、格付けスペクトラム全体の企業信用スプレッドは急上昇しました。4月に投資家が米ドルへのエクスポージャーを削減したため、安全資産としての資金は金やその他の主要通貨市場に流入しました(図6.B)。 ユーロ圏、日本、英国の短期金利は急速に低下しましたが、これは投資家の金融緩和への期待も一因となっています(青線)。長期金利は、投資家がデュレーション・リスクへのエクスポージャーの拡大に消極的だったため、それほど反応しませんでした。これは特に米国債市場で顕著で、価格が大きく変動し、長期金利が上昇しました。リスクオフ局面としては異例なことに、投資家が保有する米国資産の為替リスクの一部をカバーしようとしたことで、米ドルは多くの通貨、特にユーロ、円、スイスフランに対して下落しました(図6.C)。
大規模な関税案が撤回されたため、金融市場は安定し、回復しました。 市場のボラティリティ指標は、2024年後半に観測されたレンジに戻った。株式市場は反発し、一部の法域では年初来高値を更新した。信用スプレッドは再び縮小し、特に高利回り債セグメントで顕著となった。工業用金属は関税発表前のレンジまで回復した。原油価格は、供給の大幅な増加を受けて当初は低水準で推移したが、その後、6月に地政学的緊張が高まったことで上昇した。しかし、米ドルは、2022年初頭の金融引き締め局面開始以来のレンジの下限で推移した。米国およびその他の主要市場の長期利回りは、ここ数ヶ月上昇傾向にあり、これは財政の持続可能性に対する投資家の懸念の高まりと一致している。
関税と不確実性の経済への影響は、当初、様々なタイムリーな調査データに現れ、特に米国において家計および企業の景況感が大幅に悪化したことを示している。対照的に、従来の統計、すなわちハードデータへの影響は、現れるまでに時間を要し、これまでのところ経済の読み方はまちまちとなっている。一部の指標は、関税の導入を回避しようと支出が前倒しされたことで押し上げられた。第1四半期の米国GDPの縮小などの例に見られるように、これらのハードデータに関連する変動性は、多くの経済において基調的なトレンドの把握を困難にしている。労働市場などの遅行指標は、概ね堅調に推移した。
⑤ 関税と不確実性が経済見通しに影を落としている
最近の政策動向は、経済見通しに重大な影響を及ぼすと予想されます。関税の経済影響を評価する上では、関税が経済に直接及ぼす影響やサプライチェーンへの影響から、金融市場の反応やその他の政策対応に伴う間接的な影響まで、複数の経路が重要です。しかし、これらの経路の強さを評価することは困難です。それは、政策が絶えず変化しているだけでなく、関税の執行における実務上および法的複雑さ、そしてその影響を評価するための最近の前例が不足しているためです。たとえ貿易交渉が成功したとしても、政策の不確実性に関連する影響が経済の足かせとなる可能性があります。
まず、関税の影響とその主要な波及経路について考えてみましょう。関税の引き上げは、関税を課す国にとって供給ショックとなり、生産量を減少させ、価格を上昇させます。 関税は輸入品の価格を上昇させることで実質所得を減少させ、結果として輸入品と国内製品の需要を減少させます。輸入価格の上昇は国内生産品への代替を促す可能性があり、保護産業の生産を押し上げる可能性はあるものの、実証的証拠は、この効果は限定的であることを示唆している。重要なのは、こうした代替は、資本と労働力が競争力の低い企業やセクターに振り向けられるため、効率性を犠牲にすることが多いということである。
さらに、関税は総輸入額と総輸出額の流れに変化をもたらすものの、純貿易額にはほとんど影響を与えない(ボックスA参照)。関税は、対象国にとって、主に輸出を減少させることで、マイナスの需要ショックとして作用する傾向がある。関税が経済活動に与える影響は、貿易関係の強さと、輸出を他の市場に振り向ける余地の大きさに左右される。同時に、関税によるディスインフレ効果は、国内のスラックだけでなく、関税を課している国から転用される財の供給増加の可能性にも左右される。
米国の関税の場合、メキシコやカナダといった国の経済生産は最も大きな影響を受ける可能性が高い一方、欧州経済への影響は比較的小さいと予想されます。個々の経済への直接的な影響に加え、関税の引き上げは、貿易全体の効率性が低下するため、世界経済に調整コストを課す可能性があります。サプライチェーンの調整に伴い、貿易に大きな混乱が生じ、一部の商品の一時的な品不足が発生する可能性があります。パンデミックの際に見られたように、こうした混乱は経済全体の生産と価格に重大かつ長期的な影響を及ぼす可能性があります。
さらに、関税の影響は、金融政策と財政政策の調整、そして名目為替レートの変動を含む金融市場の状況の変化によって大きく左右されます。こうした影響は、既存の脆弱性(後述)によってさらに増幅される可能性があります。 新たな関税の範囲と対象についてより明確な情報が得られるまでは、不確実性は短期的な見通しを形作る主要な要因の一つであり続ける可能性が高い。
一部の企業は、将来の潜在的な混乱を予測し、2024年末に向けて信用枠を増額していたことが示唆されている(図7.A)。この増加は、貿易政策の変更の影響を受けるセクターの企業で最も顕著だった。不確実性の影響だけでも、複数の経路を通じて短期的な経済見通しに大きな影響を与える可能性がある。例えば、不確実性の高まると、企業は投資や雇用に対してより慎重なアプローチを取るようになる。なぜなら、こうした決定を覆すには多大なコストがかかる可能性があるからだ。同様に、消費者は耐久財の購入を延期し、予防措置として貯蓄を増やすことを選択するかもしれない。
同時に、不確実性の高まりは、貸し手の慎重さが増すため、外部資金調達コストを増加させ、投資をさらに抑制する可能性がある。これらの経路と一致して、不確実性の指標の上昇は、通常、経済活動、特に企業投資の低迷が、経済成長の鈍化、特に設備投資の低迷を招いています。推計によると、最近の不確実性の高まりは、2025年と2026年の設備投資に大幅なマイナスの影響を与えることが示唆されています(図7.B)。
政策担当者は、変化する経済・地政学的な状況に対応してきました。例えば、カナダ政府は、米国の関税によって直接的な影響を受けた企業と労働者を支援するため、さまざまな経済支援プログラムを導入しました。中国当局は、消費者需要とインフラ投資の促進を目的とした財政支援を発表しました。一方、欧州中央銀行(ECB)、中国人民銀行、メキシコ銀行、タイ銀行など、多くの中央銀行が、貿易と不確実性による成長リスクを理由に、ここ数カ月で政策金利を引き下げました。市場の織り込みは、中央銀行が今後追加支援を行うことを示唆しています。主要経済国の中央銀行の中で、連邦準備制度理事会(FRB)と欧州中央銀行(ECB)は、さらなる金融緩和を予想しています。 日本銀行は、これまでの見通しよりも緩やかな利上げを行うと予想されています。
GDP成長率のコンセンサス予想は、貿易摩擦の直接的および間接的な影響が織り込まれたため、下方修正されました。世界経済の成長率は現在、2025年に2.7%、2026年にはわずかに上昇すると予想されています。これらの予測は、2025年初頭の予想よりも約0.25%低いものです。最も大幅な下方修正は、北米と東アジアの一部で見られました。米国の成長率は、2025年初頭の予想と比較して約1%ポイント下方修正され、米国を最大の貿易相手国とするメキシコとカナダの成長率も同様に下方修正されました。 その他の地域では、GDP成長率の短期見通しは、2025年初頭の予想に比べて概ねやや弱含みとなっている。
成長率の低下と貿易政策の変更がインフレに及ぼす純影響は、特に短期的には経済によって異なる。米国では、広範な関税の累積的な影響により、今後数ヶ月で物価水準が大幅に上昇すると予想されている。しかし、国内経済の弱さが物価上昇を圧迫するため、2026年にはインフレは緩和すると予測されている。米国の関税が他の多くの経済に及ぼすインフレ影響は概ね小さいと予想されているが、報復措置、貿易フローの方向転換、為替変動といった貿易政策対応の相互作用に左右される。貿易摩擦に伴う世界経済成長の減速と相まって、多くの経済においてインフレ見通しは若干下方修正されている。
⑥ コラム1-A 貿易赤字と関税:関税が不十分な理由
米国による輸入品への関税賦課は、世界貿易が慢性的な貿易赤字を抱える国々に不均衡な損害を与えているかどうかについての議論を再燃させている。批判者は、これらの貿易赤字が製造業における雇用の減少と賃金停滞、そして所得格差の拡大につながっていると主張し、しばしば一部の貿易相手国による不公正な慣行に起因するとしている。本稿では、実証研究に照らしてこれらの批判を検証する。
世界貿易に対する一般的な批判は、しばしば根拠がない。第一に、貿易は貿易赤字の拡大を背景に拡大してきたわけではない。実際、2000年代以降、世界GDPに占める貿易赤字の規模は減少している。 もう一つの注目すべき事実は、先進国(AE)において製造業の雇用全体に占める割合は概して低下しているものの、GDPに占める割合の低下幅は小さいことです(グラフA1.A)。これは、製造業における雇用の減少の一部は、国際貿易ではなく、自動化の進展を反映した資本と労働の代替によって引き起こされたことを示しています。さらに、輸入水準の上昇と製造業の縮小を結びつける地域的な証拠がいくつかあるにもかかわらず、製造業の弱さは輸入の急増よりも輸出の低迷によってより適切に説明されます(グラフA1.B)。
最後に、貿易赤字はしばしば国内経済の力強い成長と関連付けられるのに対し、貿易黒字は国内需要の弱さや根本的な構造的非効率性を反映している可能性があります。したがって、貿易赤字と成長率の低下の間には、データ上の相関関係はほとんどありません。貿易赤字が経済成長に悪影響を及ぼすかどうかは、より広範な経済状況と、それを牽引する要因によって決まります。 たとえ貿易赤字を削減し、輸入を犠牲にして国内生産を拡大することにメリットがあったとしても、広範な関税は効果的な手段ではない。実証的証拠は、総貿易フローとは異なり、貿易収支は関税の賦課または撤廃にほとんど反応しないことを示している(図A1.C)。
この結果は、いくつかの要因を反映している可能性がある。輸入は貿易相手国間で再配分されることが多く、為替レート調整は関税の意図された効果を相殺する傾向があり、貿易相手国による報復措置はしばしば輸出を減少させる。
逆に、貿易収支は他の要因にも敏感である。総需要側では、貿易収支は国内貯蓄と投資の間の根本的なマクロ経済バランスを反映している。
関税は、国民貯蓄を押し上げたり投資を抑制したりする可能性がある(経済が不況に陥った場合、一時的にはそうなる可能性がある)が、貿易収支を構造的に変化させることはほとんどない。
総供給面では、特化の原則が依然として重要である。関税が法外な高水準に設定されない限り、各国が最も効率的に生産できる財の生産に特化するよう促す力に勝る可能性は低い。その結果、生産パターンはほとんど変化せず、消費者と企業は価格上昇の負担を強いられることになる。
さらに、関税が保護対象産業の生産を押し上げるという証拠はほとんどない。実際、関税はしばしば経済活動を抑制し、価格上昇という形で大きなコストを課す。その理由の一つは、輸入品は主に国内生産プロセスに供給される中間財・サービスであるためである。 例えば、鉄鋼やアルミニウムといった上流の投入財に関税が課されると、これらの材料を投入財として使用するセクター(いわゆる下流セクター)にとって重要な投入財のコストが上昇し、生産チェーン全体にわたって非効率性が生じます。こうした措置は、国内供給を強化するどころか、国内生産者のコストを上昇させ、競争力を低下させることで、供給を阻害するリスクがあります。
マクロ経済政策は、貿易収支をコントロールするためのはるかに効果的なアプローチを提供します。特に財政再建は、国民貯蓄と投資のバランスに直接影響を与えるため、貿易赤字を大幅に縮小する可能性があります。 実証的な証拠はこの点を強調しています。歴史的に、財政赤字の対GDP比が1パーセントポイント減少すると、貿易赤字はGDPの0.3~0.5パーセントポイント縮小するとされています。
同時に、黒字国は、国内総需要を刺激したり、中長期的な課題に対処するための構造政策を実施したりすることで、世界的な貿易不均衡の是正に貢献することもできます。例えば、一部の黒字国では、公共投資の増加によってインフラのギャップを埋めることができる一方、他の黒字国では、社会セーフティネットの強化によって国内消費を促進し、過剰貯蓄傾向を軽減できる可能性があります。
これらの取り組みを補完するために、政府は関税に頼ることなく製造業の生産と雇用を支援するためのいくつかの政策オプションを有しています。これらのオプションには、インフラ投資の増加、規制の合理化、研究開発費へのインセンティブの提供など、競争力強化を目的とした構造改革が含まれることがよくあります。
さらに、政府は積極的労働市場政策の改善を通じて、失業者への支援を強化することができます。これは、米国を含む一部の国が現在ほとんど、あるいは全く投資していない分野です。関税は貿易不均衡の是正には効果がありませんが、貿易相手国に関税やその他の非貿易障壁の引き下げを迫るために活用することは可能です。
それでもなお、関税は世界経済に多大なコストをもたらす可能性があります。短期的には、関税を課す国と対象国の両方で経済成長の急激な減速を引き起こすリスクがあります。しかし、より深刻なのは、過去の合意を破棄する一方的な行動は信頼を損ない、合意の持続性の低下や、貿易相手国間の将来における有意義な協力への意欲の低下につながる可能性があることです。
⑦ 今後の道筋における脆弱性
複数の脆弱性の存在は、世界経済の見通しに対するリスクを増大させています。これらは大きく3つのカテゴリーに分けられます。
第一に、実体経済に関するものです。多くの国では、潜在成長率が数十年にわたって着実に低下しており、供給能力も柔軟性を失っています。さらに、パンデミック期におけるインフレの急上昇は、家計や企業の将来のインフレに対する感応度を高めている可能性があります。
第二に、多くの国で公的債務が前例のない水準に達しています。その結果、インフレと金融安定に対するリスクは、ソブリン債市場のストレスから発生し、あるいはそのストレスを通じて伝播しやすくなっています。
最後に、非銀行金融セクターの一部で信用リスクと流動性リスクが増大しており、銀行だけでなく主要金融市場の機能にも影響を及ぼしています。本セクションでは、これらの脆弱性を一つずつ検討します。
⑧ コラム1-B 貿易制限は新興市場経済国(EME)におけるFDIを阻害し、経済成長を鈍化させる
外国直接投資(FDI)は、新興市場経済国(EME)における経済成長の重要な原動力であり、必要な資本を提供し、知識移転の導管としての役割を果たしている。
先進国(AE)の多国籍企業(MNE)が発展途上市場に参入する際、EMEに正の外部効果をもたらす先進技術や経営慣行を導入することが多い。これらの外部効果は、現地企業がMNEに供給することで、より高い基準に触れ、そのベストプラクティスを採用する際に生じる。労働力の流動性は、MNEとEME企業間の知識の伝播も促進する。
生産性のスピルオーバーに加えて、FDIは国家間の貿易連携を強化することもできる。MNEによる直接投資は、確立された国際市場や流通ネットワークへのアクセスを提供することで、EMEの輸出能力を高めることが多い。 これにより、新興市場国(EME)企業のグローバルバリューチェーンへの統合が促進され、輸出基盤の拡大と多様化が促進され、ひいては経済成長が促進されます。
世界金融危機以降、貿易制限がより一般的になっています。関税などの政策は、国内産業を外国との競争から守るために考案され、FDIのリスクとリターンのトレードオフを再構築しました。貿易保護主義が強まるにつれて、FDIはますます混乱し、多くの新興市場国(EME)が採用している輸出主導型成長戦略の中心であった知識のスピルオーバーと輸出機会が減少しています。貿易制限の急激な変更もまた、グローバルバリューチェーンを混乱させ、効率性を向上させることなくチェーンの長さを延長させることがよくあります。
また、将来の変化に関する不確実性を生み出し、計画を複雑化させます。これらの傾向は相まって、MNEによるEME関連会社への投資の減少につながっています。これは、MNEの外国関連会社からの輸入の割合が、新たな貿易障壁に直面するか、直面するリスクにさらされているためです。
2009年から2023年までの貿易制限に関するデータによると、新興市場経済国の財・サービスに対するAEによる新規輸入制限の総数は、年平均8%増加している。これらの新たな制限は、新興市場経済国からの輸入品に占める割合がますます大きくなり、2009年の総輸入額の平均約5%から2023年には62%に増加した。貿易制限の対象範囲が拡大するにつれて、新たな障壁を課すAEによる対外直接投資の年間成長率は低下した。
新興市場経済国からの輸入の50%以上が貿易制限の対象となっているAEでは、貿易制限のないAEに比べて、新興市場経済国への対外直接投資の伸び率が大幅に低下した(グラフB1.A)。保護主義を強めるAEからの対外直接投資の流入速度が鈍化しているため、新興市場経済国における力強い経済成長の見通しは悪化している。新興市場経済国からの対内直接投資の割合が大きい国では、輸入の少なくとも50%に貿易制限を課した国では、平均GDP成長率が鈍化しました(グラフB1.B)。この証拠は、保護貿易主義が高まり続けるにつれて、新興経済国(AE)から新興経済国(EME)へのFDI流入が減少し、新興経済国(EME)の成長ポテンシャルが低下し、新興経済国(EME)と新興経済国(AE)間の経済収斂の見通しが悪化することを示唆しています。世界貿易を保護主義の弱い国へと再編することで、この傾向を逆転させ、新興経済国(EME)へのFDI流入を増加させ、より力強い成長を支えることができるでしょう。
⑨ 真の脆弱性
世界経済は、長年にわたる構造的な問題と新たな構造的な問題の両方に直面しています。大きな問題は、数十年にわたる経済成長の低下です。多くの先進国、そして最近ではいくつかの新興国(EME)で顕著です(図8.A)。成長の鈍化は、生活水準の向上を制限するだけでなく、景気後退からの回復を遅らせ、債務の持続可能性を損ない、マクロ経済と金融の安定性に対するリスクを高めます。さらに、人口の高齢化とグローバル化の減速に伴い、多くの国が供給の反応性の低下という問題に直面し始めており、インフレが生産量の変化に敏感になる可能性があります。まず、経済成長率のトレンドが低下していることを検討してください。多くの先進国では、生産性の伸びは数十年にわたって低下傾向にありました。この低下は、新技術による生産性の向上が減少していることを部分的に反映しています。同時に、生成型人工知能(AI)を含む新興技術のメリットが完全に実現される時期は依然として不透明です。 これらの課題に加えて、人口の高齢化により、ほとんどの先進国(AE)はもはや国内労働力の拡大を期待できなくなっています(図8.B)。
同様の成長減速は、多くの新興国(EME)でも見られるようになりました。かつては追い上げ成長の恩恵を受けていましたが、その後、先進国(AE)との収斂は鈍化し、多くの新興国(EME)が高齢化など、先進国と同様の課題に直面し始めています。さらに、これらの新興国(EME)の中には、技術の普及を外国直接投資(FDI)に大きく依存している国もあり、特にアジアにおいては輸出主導の成長に大きく依存している国もあります。
とはいえ、政策は長期的な成長を形作る上で依然として重要な役割を担っています。 多くの経済において、最も活力のある経済も含め、生産性の伸びの鈍化は、企業のダイナミズムの弱体化(いくつかの国では企業の設立、拡大、撤退率の低下に表れている)と、企業の生産性成果のばらつきの拡大に見られるような配分効率の低下を伴っている。
これらの低下は、国によって異なる複数の原因に起因しているが、多くの場合、不十分な競争、規制の複雑さ、硬直的な労働市場、不十分なインフラに起因する高いエネルギーコストと物流コストが含まれる。
このような背景から、グローバル化は所得成長を持続させる上で重要な力となり、所得成長を阻害してきた他の要因に対抗してきた。 貿易と資本フローの統合は、より高度な専門化、資本配分の改善、そして競争の強化。また、特に新興国(EME)におけるFDIを通じた技術普及も大きく促進した。
しかし、こうした恩恵は、高まる貿易摩擦と地政学的緊張によってますます脅かされている。最近の米国の関税発表以前から、世界貿易の伸びは大幅に鈍化し、世界金融危機(GFC)を受けてFDIは減少していた(図8.C、囲みB参照)。確かに、こうした傾向は、グローバルバリューチェーンの成熟と、中国をはじめとする主要な新興国(EME)の成長減速を部分的に反映している。以前の関税削減による恩恵は薄れつつあり、一方で非関税障壁や産業政策措置も、特に新興国(AE)において増加していた(図9.Aおよび9.B)。 これは、特に貿易赤字が慢性化している国々における保護主義的な感情の高まりと時を同じくしており、所得格差の拡大と雇用喪失への懸念がこれを煽っています(図9.C)。米国による大幅な貿易関税の導入は、こうした傾向をさらに強めました。
しかしながら、広範な輸入関税は、こうした懸念に効果的に対処する可能性は低いでしょう。関税を課している国々では、輸入品と競合するセクターにおいてさえ、生活水準全体を低下させ、雇用を減少させるリスクがあります。むしろ、貿易不均衡の削減が目的であれば、より効果的なアプローチは、適切な財政政策と構造政策、特に失業した労働者が他のセクターで仕事を見つけるのを支援する政策の採用です(ボックスA参照)。
最近の構造的動向は、トレンド成長を制限する長年の要因を悪化させるだけでなく、ショックへの対応における経済の供給柔軟性を低下させています。 例えば、人口動態の変化は、いくつかの経済において労働力不足と労働力供給の非弾力性の向上に寄与しています。多くの場合、高齢労働者の退職に伴う労働力の大幅な減少を防いでいるのは、外国生まれの労働者への依存だけです(図8.B参照)。グローバルに統合されていない財市場では、中間製品へのアクセスの制限、競争の弱さ、そしてサプライチェーンの硬直化といった制約により、企業は生産拡大時にコスト上昇に直面する可能性があります。資源配分を妨げる市場の硬直性は、企業の能力をさらに制約する可能性があります。
需要の変化に適応するために、多くの経済は今日、ここ数十年よりも急勾配のフィリップス曲線に直面し、生産量の変化がインフレ率のより大きな変化につながる可能性があります。
さらに、インフレ期待は不安定になっている可能性があります。パンデミックからの回復期におけるインフレ急騰に驚かされたため、企業と家計のインフレ期待は将来の物価上昇により迅速に反応する可能性があります。実際、最近の調査では、家計の今後1年間のインフレ期待は、過去5年間の物価上昇に対する認識と密接に関連していることが示されています。この関連性は、パンデミック以前よりも今日の方が強くなっています(ボックスC参照)。その結果、インフレ期待が不安定になるリスクは、パンデミック後に高まっているように思われます。
これらの課題をさらに複雑にしているのは、経済環境がより頻繁で、激しく、持続的な悪影響の供給ショックに直面する可能性が高まっていることです。 これらのショックの主な要因としては、極端な気象現象を伴う気候変動と、商品市場やバリューチェーンを混乱させる可能性のある地政学的緊張が挙げられます。全体として、経済活動が低迷するにつれて、インフレ率は将来的に目標からの乖離がより頻繁かつ持続的に起こり、金融政策の運営がより困難になる可能性があります。
⑩ 財政の脆弱性
世界金融危機とパンデミックは、多くの国で公的債務の増加と巨額の財政赤字をもたらし、多くの場合、債務水準は平時における過去最高水準に達しています(図10.A)。2024年には主要国でGDPの6~7%に達していた財政赤字は、今後数年間、部分的にしか解消されないか、あるいは緩やかなペースで解消されると予想されるため、これらの水準はさらに上昇すると予測されています。
債務水準は、年金や医療費を押し上げる人口高齢化に加え、インフラ投資、よりグリーンなエネルギーへの移行、防衛ニーズの増大といった新たな需要からも上昇圧力を受けるでしょう。さらに、家計の実質所得の更なる減少に対する許容度が限られているため、将来のショック発生時には、財政支援による補償を求める声がより一層高まる可能性があります。高い公的債務水準は、力強い所得の伸びと低金利のもとで持続可能であるものの、現在および将来の状況はそれほど好ましいとは言えません。
前述のように、経済成長は予見可能な将来にわたり低迷すると予想されます。さらに、金利はパンデミック前の10年間に観測された低水準には戻らない可能性があります。実際、現在の金利はすでに財政収支を圧迫しています。 例えば、比較的高い利払いを行っている経済協力開発機構(OECD)諸国では、平均支払額は2021年のGDPの3%から2024年には4%以上に上昇しており(グラフ10.B)、金利が変わらなくても、いくつかの国ではさらに増加すると予測されています。
各国は今後2年以内に公的債務残高の最大半分を借り換える予定である(図10.C)。債務持続可能性に対する重大なリスクは、債券利回りがさらに上昇する可能性があることである。特にインフレがより不安定かつ持続的になった場合、あるいは政府が巨額の財政赤字への対処を遅らせた場合、そのリスクは大きくなる。これらのリスクは、投資家基盤の変化によってさらに悪化する可能性がある。主要経済国では、中央銀行が量的緩和政策を縮小するにつれて、中央銀行の国債保有量が減少すると、ソブリン市場における需給の不均衡が悪化し、期間プレミアムを通じて利回りに上昇圧力がかかる。こうした減少は、民間投資家がそのギャップを埋めるために介入したため、すでに世界金融危機とパンデミック後の低水準から期間プレミアムをいくらか拡大させている(図11.A)。 例えば、連邦準備制度理事会(FRB)が2022年半ば以降に保有する国債を1.5兆ドル削減したことで、長期金利が上昇したと推定されている。約80ベーシスポイント低下し、パンデミック中の量的緩和による推定影響の約3分の2を逆転させた。
同時に、国債に対する投資家の投資意欲が若干弱まり、仲介上の課題が増大している兆候も見られる。一つの指標として、金利スワップ・スプレッド(金利スワップの固定金利部分と同期間国債利回りの差)が最近低下し、日本円とドイツ・ユーロのスワップでマイナス領域に陥ったことが挙げられ、これは米国の類似商品に倣ったものである(図11.B)。
一方、株式と債券の相関関係の上昇は、インフレ期待の高まりとインフレ不確実性への懸念の高まりを背景に、投資ポートフォリオにおける国債の伝統的なヘッジ特性が低下していることを示唆している。 これは、米国債の利便性利回りの低下にも反映されています。利便性利回りとは、投資家が安全性と流動性のためにこれらの証券を保有する際に支払うプレミアムです(図11.C)。
高い公的債務水準が、金利上昇と経済成長の鈍化と相まって、物価と金融の安定を損なう可能性のある悪影響シナリオの発生リスクを高めます。例えば、財政の持続可能性に対する懸念の高まりは、借り換えの課題を引き起こし、インフレ期待を揺るがす可能性があり、金融政策の運営を複雑化させる可能性があります。これらの課題は、資本が国外に流出し、インフレ圧力が強まることで通貨安が進むことでさらに悪化する可能性があります。
とはいえ、これらのリスクは、中央銀行の独立性と強力な制度的保障措置によって大幅に緩和されています。これらの制度的保障措置は、金融当局を政治的干渉から保護し、その責務を厳格に遵守することを可能にしています。 これは国民の信頼を強化し、財政の持続可能性に対する懸念が高まっている時期であってもインフレ期待を安定させます。
また、高い公的債務は、金利が上昇した場合、特に金融セクターのレバレッジが高い場合、金融システムを資産価値の低下に対して脆弱にします。それがソブリンリスクやインフレリスクの変化を反映しているのか、それとも予期せぬが必要な金融政策の引き締め、政府債務のリプライシングを反映しているのかに関わらず、国債の発行は、多額の国債を保有する銀行やノンバンク金融機関に多大な損失をもたらす可能性があります。こうした損失は、ひいてはレバレッジ解消や倒産につながり、最終的には経済全体の金融環境を逼迫させる可能性があります。結果として生じる景気減速は、国の信用力をさらに低下させ、財政と金融の脆弱性の間に相乗効果を生み出し、両セクターのリスクを悪化させる可能性があります。
最近の出来事は、財政リスクが急激に高まった場合に、これらの脆弱性がどのように影響するかを浮き彫りにしています。 例えば、2022年9月のミニ予算発表後の英国国債市場の混乱の中心は債券損失でした。この出来事はまた、英国の年金基金が用いていた負債主導型投資(LDI)戦略の危機を引き起こしました。国債利回りの急上昇により、年金基金は突然のマージンコールに直面し、資産売却を余儀なくされました。これは自己増幅的なスパイラルとなり、市場のさらなる不安定化を招きました。
同様に、インフレ対策のための米国の政策金利の急速な引き上げは、2023年3月の米国地域銀行危機において極めて重要な役割を果たしました。一部の銀行が突然の多額の預金引き出しに直面した際、国債の未実現損失が重大な問題となりました。将来、一部のソブリンの信用力が疑問視された場合、ストレスはさらに深刻になる可能性があります。
⑪ マクロ金融の脆弱性
マクロ金融の脆弱性は、貿易政策の転換や不確実性の高まりによって引き起こされる予想される景気減速など、経済動向を増幅させる可能性を秘めています。民間部門の債務水準は、世界金融危機以降、そしてパンデミックの間も、ほとんどの国で比較的安定していましたが、いくつかの法域の非金融法人や、いくつかの小規模経済圏の家計では、歴史的な高水準にとどまっています(図12.A)。
同時に、世界金融危機以降の金融システムの大きな変化は、新たなリスクをもたらしました。政府によるソブリン債の発行残高は、民間部門向け債権の伸びを上回り、金融仲介は銀行からノンバンク金融機関へとますます移行している。民間信用ファンドは現在、民間企業への信用供与においてより大きな役割を果たしており、資産運用会社とヘッジファンドは、短期資金調達市場とヘッジ市場の拡大に支えられて、ソブリン債市場とクロスボーダー資金フローにおいてより大きな存在感を示している。その結果、金融状況と金融安定リスクは、伝統的な銀行システム以外のプレーヤーの影響をますます受けるようになっている。
まず、家計部門と非金融法人部門における高債務がもたらすリスクについて考えてみよう。懸念されるのは、債務の増大が信用スプレッドの拡大、債務不履行の増加、信用利用可能額の減少につながり、景気後退を増幅させる可能性があることである。家計部門では、債務返済比率は、ほとんどの国でリスクが依然として抑制されていることを示唆している。 しかし、労働市場の悪化と住宅価格の下落が相まって、消費者支出を鈍化させ、家計債務の多い国では大きな課題となる可能性があります。企業部門では、最近の経済情勢による潜在的なデフレの影響により、一部の国の企業の信用力が悪化する可能性があります。さらに、非金融企業、特に新興国企業は、今後数年間、多額の債務の借り換えに直面することになります(図12.B)。ベンチマーク金利がさらに上昇し、スプレッドが現在の圧縮水準から拡大した場合、企業が満期を迎える債務の借り換えコストが大幅に上昇し、一部の法域で既に高い債務返済比率にさらなる圧力がかかる可能性があります(図12.C)。
こうした状況において、近年の民間信用市場の急速な成長は、新たなリスク領域となり得る可能性があります。 中小規模で多額の負債を抱える企業への長期信用のうち、民間信用ファンドによる提供が増加している。民間信用ファンドは、通常、年金基金や保険会社から資金提供を受けている。
銀行融資と比較して、この形態の信用は満期変動リスクや流動性リスクにさらされにくいものの、その透明性は極めて低い。これらの資産は定期的に時価評価されないため、景気後退期における信用供給の減少を増幅させる可能性は低いものの、企業部門に不良債権が蓄積される可能性がある。さらに、個人投資家の誘致や頻繁な償還期間の提供といった最近の傾向は、流動性リスクを再び引き起こす可能性がある。結局のところ、この比較的新しいセクターが信用サイクルの大幅な落ち込みに対してどれだけの耐性を持つのかは、未だにほとんど検証されていない。
民間の信用供与業者が新たなリスクをもたらす一方で、伝統的な銀行も民間市場への支援を通じて信用リスクにさらされています。例えば、銀行はレバレッジド・バイアウト(LBO)の資金調達のために融資を提供したり、証券化(つまり民間投資家への売却)される前の貸出金ポートフォリオを保管したりします。これらの融資が銀行のバランスシート上にある限り、銀行は関連する信用リスクと市場リスクにさらされ続けます。
2022年に発生したように、証券化の条件が悪化すると、銀行のバランスシートはこれらの融資で圧迫され、新規融資がクラウドアウトされる可能性があります。融資市場以外にも、金融仲介活動がノンバンク金融機関(NBFI)に移行したことで、流動性ストレスによって金融不安定性が生じたり、それが増幅したりする可能性が高まっています。 例えば、世界金融危機以降、ブローカー・ディーラーのバランスシートの金融システムにおける影響力が低下したため、ソブリン債市場の流動性は、オープンエンド型の投資信託、ヘッジファンド、その他の資産運用会社への依存度が高まっています。これらの機関は、しばしば大きな流動性のミスマッチに直面し、国債を担保とした短期資金に依存しているか、あるいはレバレッジを高く設定しているか、レバレッジに似た行動をとっています。その結果、流動性供給は不安定になり、市場のストレス時に蒸発する可能性が高くなります。特にヘッジファンドは、特に国債市場において、プロシクリカルな流動性の重要な供給源となっています。これらの投資家は、小さな価格差を利用しようとする相対価値取引戦略を積極的に追求しています。
関連する金融商品間の価格差は、投資家にとって大きなリスク要因となっています。こうした小さな価格差から得られるリターンを高めるため、投資家はポジションに多額のレバレッジをかけています。よく使われる方法の一つは、レポ市場で国債を担保として差し入れ、より多くの現金を借り入れ、その資金で追加の国債を購入することです。この慣行は近年さらに進化しており、投資家は提供された担保の市場価値と同額かそれ以上の金額を借り入れています。つまり、割引、つまりヘアカットは発生せず、現金を貸す側は市場リスクから保護されています。つまり、借り手はより大きなレバレッジをかけることができるため、ヘアカットが少しでも上昇すると市場全体が混乱に陥り、強制売却につながる可能性があります。 ヘッジファンドの規模拡大は、例えば、米国債へのグロスエクスポージャーの拡大(現在、流通浮動株の10%を超えている(グラフ13.A、赤線))や、レバレッジ投資家向けの米国レポ市場セグメントの拡大(青線)に反映されている。
ヘッジファンドの相対価値戦略は、資金調達市場、現金市場、またはデリバティブ市場における悪影響のショックに対して非常に脆弱であり、これは最近のいくつかの事例からも明らかである。 例えば、2020年3月の市場混乱時には、国債先物市場におけるマージンコールが投げ売りを引き起こし、デレバレッジ・スパイラルを不安定化させた。最近では、金利スワップ市場に関連した相対価値取引のより秩序立った解消が、2025年4月初旬に国債市場で観測されたボラティリティの上昇の一因となったようだ。
流動性リスクのもう一つの潜在的な発生源は、国債市場におけるステーブルコインの存在感の高まりである。総資本規模では比較的小さいものの、テザーやサークルなどの大手発行体は、米国債に多額の準備金を保有し、専用のマネー・マーケット・ファンドを通じて多額のレポ市場資金を提供している(図13.B)。 ステーブルコインの規模が拡大するにつれ、従来の金融システムが暗号資産エコシステムの変動に晒されるため、金融の安定性に対する懸念が高まっています。一方で、ステーブルコインが成長するにつれて、そのシェアは拡大していくでしょう。
従来の金融機関が本来であれば活用できた安全資産の不足が懸念されています。一方、暗号資産市場におけるマイナスショックは、大規模な売りにつながり、国債市場の秩序ある機能を阻害する可能性があります(第3章参照)。
ノンバンク金融機関(NBFI)は、主に債券へのポートフォリオ投資を通じて、クロスボーダー金融取引における役割も大幅に拡大しています。多くのノンバンク金融機関は、ポジションの資金調達や通貨エクスポージャーの管理のため、レポや外国為替(FX)スワップを通じた短期ドル資金調達およびヘッジ市場に依存しています。特に、米国以外の年金基金や保険会社は、短期FXデリバティブでヘッジされた多額の米国資産を保有しており、これらは継続的にロールオーバーされています。2024年末までに、FXスワップ、フォワード、通貨スワップを通じたドル借入は、これらの商品の世界の残高111兆ドルの90%を占めました(図13.C)。 これらのツールは、大規模なクロスボーダーポジションの資金調達とヘッジを容易にする一方で、2024年8月初旬の急激なボラティリティに象徴されるように、ノンバンク金融機関を重大な短期ロールオーバーリスクと資金逼迫にさらすことになる(第II章参照)。
⑫ コラム1-C ∶インフレの急上昇は家計のインフレ期待に影響を与えるだろうか?
ほとんどの経済においてインフレ率が中央銀行の目標値付近に戻ったにもかかわらず、家計の短期インフレ期待は依然として高い。このことから、パンデミック後の数年間における大幅な物価上昇が家計のインフレ懸念を高め、インフレ期待に永続的な影響を与える可能性があるのではないかという疑問が生じる。
先進国および新興市場国29カ国を対象とした調査結果によると、家計は平均して今後12ヶ月間のインフレ率が約8%になると予想しており、これは現在の平均インフレ率2.4%を大幅に上回っている(グラフC1.A)。
今後12ヶ月間のインフレ率の最高値と最低値を尋ねたところ、回答の分布は最も可能性の高い結果を中心にほぼ対称的である。最高インフレ率は約11%、最低インフレ率は約4%と予想されている。 さらに、この調査では、パンデミック後の数年間は、それ以前の期間と比較して物価上昇率が大幅に上昇したことを家計が認識していることが示されています(グラフC1.B)。各国平均では、中央値世帯は、2015年から2019年の間に物価が約9%上昇し、2020年から2024年の間には18%上昇したと認識しています。これらの値は、実際のインフレ率と概ね一致しています。しかし、人口のかなりの割合、約20%は、物価水準の上昇幅がはるかに大きいと認識しており、30%を超えていると報告しています。インフレ急騰の原因について尋ねられた家計は、物価上昇の主な原因として、商品価格の上昇とパンデミック関連の品不足を挙げています。
回帰分析によると、パンデミック後の数年間に大きく認識された物価上昇が、インフレ期待の高まりに寄与していることが示唆されています(グラフC1.C)。定量的な影響は有意です。 推計によると、2020年から2024年にかけて物価水準が1%上昇すると、インフレ期待は0.12パーセントポイント上昇する。パンデミック前の価格上昇も期待に影響を与えるが、その影響は約半分である。
これらの調査結果は、一時的なインフレの急上昇が家計のインフレ期待に永続的な影響を与える可能性があることを強調している。したがって、政策担当者にとって警告となるメッセージとなる。一時的なインフレショックは、比較的穏やかとみなされることが多いインフレ期待は、期待の上方シフトによって持続的なインフレ上昇につながる可能性がある。
分析はまた、インフレ期待が家計の中央銀行に関する知識と負の相関関係にあることを明らかにした。中央銀行を認識している家計(その名称を国内の中央銀行として認識している家計)と、中央銀行が物価安定の維持を目指していると考えている家計は、インフレ期待がそれぞれ2.3%ポイントと1.2%ポイント大幅に低い傾向がある。同時に、調査結果は、国民の大部分が中央銀行に関する基本的な理解を欠いていることを示している。中央銀行の名称を提示された場合、それを国の中央銀行として認識している家計は約60%に過ぎない。
さらに、中央銀行が物価安定の目標を持っていると信じているのは、人口の約半数に過ぎない。中央銀行の役割と目的に関する国民の認知度を高めるためのコミュニケーション活動を強化することは、インフレ期待を低下させ、さらに安定させることに役立つ可能性がある。
⑬ より不確実で分断化された世界に対応するための政策
経済政策は、経済と金融の安定を維持しながら、持続可能な経済成長を促進するよう努めるべきである。その成功は、選択された具体的な措置だけでなく、その実施方法にも左右される。効果的な政策立案の中核を成すのは、社会の信頼を構築し維持することである。信頼とは、政策立案者が正当かつ事前に定義された目標の追求において予測可能な行動を取り、時間をかけてこれらの目標を達成するという期待と定義される。
そのためには、政策立案者は、自らの政策を評価するための明確な目標を設定し、それを達成するための適切なツールを選択しなければならない。 中央銀行は、政策目標の達成に揺るぎなく取り組み、逸脱があれば迅速かつ透明性をもって対処し、自らの行動と決定を国民に明確に説明しなければなりません。信頼関係が構築されていれば、国民は政策当局の行動に同調し、長期的な利益のために短期的なコストを受け入れる可能性が高まります。これは政策の有効性を高めるだけでなく、変化する状況への適応能力も強化します。
これは、突発的な混乱や不確実性の高まりが見られる時期には、さらに重要になります。信頼と政策の有効性は互いに補完し合い、好循環を形成します。しかし、この力学は逆方向に働くこともあります。この観点から見ると、中央銀行の独立性に対する脅威や国際政策の劇的な変更は、明示された目的を達成できないだけでなく、将来の政策措置の有効性を損なうリスクがあります。 したがって、政策立案者は、政策枠組みの強化に継続的に努め、変化する課題に直面しても目的に適合し続けるようにすべきである。
このような背景を踏まえ、本セクションの残りの部分では、前述の脆弱性に直面しながらも長期的な成長を支え、通貨・金融の安定を維持するために必要な主要な政策優先事項について議論する。
⑭ 構造政策
構造改革は、ここ数十年にわたり多くの経済が経験してきた経済成長と生産性の低成長、そしてこれらの経済の供給サイドの硬直化という根強い課題に対処するための鍵となる。
構造改革は、その重要性にもかかわらず、しばしば遅れをとってきた。しかし、今やその実施の必要性はより切迫したものとなっている。 一つには、高関税やその他の貿易障壁が恒久化したり、地政学的な境界線に沿った世界経済の分断が続いたりすれば、世界経済はサプライチェーンの大幅な再編、資本移動のパターンの変化、そして商品やサービスの最終目的地のシフトを経験する可能性がある。これは、国内市場が企業やセクター間で資源を効率的に再配分する能力を向上させること。さらに、公的債務が増加し、民間部門の債務も依然として高水準にある状況では、債務の持続可能性を改善し、より広範なマクロ経済の安定を確保するためには、潜在成長率を高めることが極めて重要である。
最後に、供給側を強化する構造改革こそが、持続可能な経済成長を達成するための唯一の手段である。拡張的な金融政策も拡張的な財政政策も、長期成長の持続的な原動力として機能することはできない。同時に、供給側がより強力で柔軟であれば、経済の悪影響への耐性も向上し、中央銀行が直面するトレードオフが緩和される。
構造政策は、各国の具体的なニーズと優先事項に応じてバランスを取りながら、少なくとも3つの主要な相互に関連する分野に焦点を当てるべきである。
1つは、市場の硬直性を低減し、行政能力を強化することである。 労働市場が逼迫している状況では、労働力供給を拡大するために、財政的インセンティブ、年金制度、移民政策の改革が不可欠です。官僚機構の縮小、行政プロセスの合理化、対象を絞った減税措置などにより、ビジネスのダイナミズムを高めることができます。こうした硬直性を緩和するには、効率的な行政も重要です。そのためには、優秀な人材の誘致、職員へのインセンティブの見直し、そして通常の政府支出と主要な公共投資プロジェクトの効率化を図るための計画法や規制の見直しが必要になるかもしれません。
もう一つの改革分野は、国内外の貿易障壁の撤廃であり、これは進行中の貿易紛争による貿易損失を相殺するのに役立つ可能性があります。驚くべきことに、国内障壁は非常に大きくなる可能性があります。 例えば、推計によると、EU域内の貿易障壁は製造業で45%、サービス貿易で110%の関税に相当し、カナダの州間貿易障壁は7%の関税にほぼ相当する。域内資本市場の完全な統合を妨げるものも含め、これらの障壁を削減することで、企業の成長を促進し、新規投資プロジェクトへの信用フローを改善できる。貿易摩擦が続く中、既存の地域貿易協定の見直しや新たな協定の締結は、より緊急性を増している。例えば、ラテンアメリカにおける南部共同市場(メルコスール)やアジア太平洋地域における地域包括的経済連携(RCEP)の拡大は、現在の国境を越えた投資の減少を相殺する可能性がある。さらに、貿易紛争は、長らく停滞していた貿易協定(例:EU-メルコスール)の締結や、度々遅延していた条約(例:カナダ-EU)の完全批准を加速させる可能性がある。
最後に、多くの国では、低成長傾向や供給の硬直性に対処するためだけでなく、気候変動の影響や防衛ニーズの増大といった新たな課題に取り組むためにも、公共投資の拡大が不可欠である。また、将来の貿易パターンの変化に経済が適応するための鍵となる可能性もある。重要なのは、公共投資が民間企業の投資を活性化させる触媒としても機能することである。インフラ整備や、エネルギー、バイオメディカル、AIなどの分野における研究支援を通じて、公共投資はコスト削減、新たな市場の創出、民間部門の活動刺激につながる。さらに、公共投資によって創出される追加的な需要は、加速効果を通じて民間投資を増幅させる可能性がある。
残念ながら、多くの経済において、公共支出に占める公共投資の割合は低下傾向にあり、生産性向上の持続的な減速の一因となっています。ドイツ政府が最近発表した大規模なインフラ基金は、この傾向を反転させるための一歩であり、十分な財政余地を持つ他の国々でも同様の取り組みが続く可能性があります。しかし、大規模プロジェクトを期限通りに予算内で完了させる能力が限られているため、一部の国では大きな課題となっています。また、一部の国では、欧州連合(EU)の復興・強靭性ファシリティの利用率が低いことからもわかるように、利用可能な資金を十分に活用するのに苦労する国もあります。さらに、供給側の硬直性に対処しなければ、多額の公共投資はインフレ率の上昇を招くリスクがあります。成功するためには、多くの国において、大規模な投資計画を構造改革によって補完する必要があります。
⑮ 財政政策
財政政策の重要な優先事項は、債務の持続可能性を確保し、財政バッファーを再構築することです。これにより、物価と金融の安定を脅かす不安定化シナリオのリスクが軽減されると同時に、公共投資の増加やより広範な構造改革への支援など、将来の必須支出の増加に対応するために必要な財政余地が創出されます。
実際には、これは、多額の財政赤字と限られた財政余地に直面している国が財政再建を追求しなければならないことを意味します。研究によると、財政再建は一定の条件が満たされた場合に成功する可能性が高くなります。まず、市場が財政の持続可能性について懸念を表明していない限り、短期的な生産コストを最小限に抑えるために、財政再建は段階的に行うべきです。生産への大きなマイナスの影響は、債務比率の安定化を困難にするため、段階的なアプローチがより効果的になります。 財政調整の質も同様に重要である。支出構成と税制変更は、財政目標を達成するだけでなく、短期的なコストを最小限に抑え、長期的な供給力を高めるためにも、慎重に設計されなければならないからである。
支出と税率が既に高い国では、税制に基づく財政再建に過度に依存すると、成長がさらに阻害される可能性がある。税と支出構成の調整は、持続可能な成長を促進するために必要な構造改革の一部であり、前述のように、他の構造的措置と併せて実施する方が効果的である。
短期的な意思決定を導くための適切に設計された予算ルール、長期的な目標を達成するための財政ルール、そして独立した財政評議会を含む強固な財政枠組みは、財政計画の信頼性を強化し、それによって段階的な財政再建と生産コストの削減を可能にする。 強固な財政制度のもう一つの利点は、財政再建期間以外でも、リスクプレミアムが低く、ひいては経済全体の資金調達コストが低くなる傾向があることです。36 これらは、政策制度への信頼が政策の有効性を高める明確な例です。財政再建はまた、力強い経済成長と世界的な金融環境の安定期に実施された場合に、より成功する傾向があります。この観点から、最近の世界経済見通しの悪化は、財政再建の取り組みを複雑化するリスクがあります。景気後退が現実のものとなった場合、景気減速の深刻化を避けつつ、投資家の信頼を損なうことなく、財政再建のペースを慎重に調整する必要があります。財政余地が限られている政府にとって、慎重なアプローチとは、自動安定化装置を最大限機能させつつ、構造的均衡の安定化に重点を置くことと言えるでしょう。 強固な財政制度を有し、必要な構造改革を既に実施している国は、そうする上でより有利な立場にあるだろう。
⑯ 規制と監督
金融安定に対する主要なリスクとしては、国債市場など、中核金融市場における流動性ストレスの潜在的な発生源の拡大が挙げられる。同時に、銀行とノンバンク間の無数の連携により、ノンバンク金融機関セクターのストレスが銀行セクターに波及する可能性が拡大している。
健全性政策と金融規制における2つの主要な優先事項は、金融システムの脆弱性の増大に対処するのに役立つだろう。第一に、法域間でバーゼルIIIの一貫した実施を確保すること、第二に、金融安定に対して同様のリスクをもたらす金融仲介機関に一貫した規制枠組みを適用することにより、より包括的なアプローチを採用することである。
一部の国では、成長目標と金融安定リスクのバランスをとるため、バーゼルIIIの導入延期や金融セクターの規制緩和を検討している。支持者は、規制緩和は信用を刺激できると主張している。
銀行の供給と経済活動は、短期的な利益を得るには長期的な不安定性を犠牲にしなければならないことは歴史が証明している。適切な資本規制と流動性規制は、監督と適切なマクロプルーデンス政策と相まって、金融機関による過剰なリスクテイクを抑制し、経済全体を危険にさらしかねない金融危機を予防してきたことが実証されている。さらに、自己資本比率の上昇は貸出の伸びの上昇と関連しており、信用供給のための強固な資金調達源としての銀行資本の重要性を浮き彫りにしている。世界金融危機によって明らかになった規制上の欠陥に対処するには、地域全体でバーゼルIIIを適時かつ一貫して導入することが依然として重要である。 さらに、2023年の銀行業界の混乱から得られた金利および流動性リスク管理に関する知見は、国内および国際基準の策定と適応にも活用されるべきである。
さらに、規制当局は、ノンバンク金融機関(NBFI)セクターに移行したリスクと脆弱性に留意する必要がある。前述のように、2つの重要な動向は、規制の厳しい主体から規制の緩い主体への信用リスクの移行と、特に国債市場における流動性リスクの増大である。その例としては、民間信用の力強い成長とレバレッジの上昇、国際的に活動するノンバンク金融機関の存在感の高まり、そしてステーブルコインと伝統的金融との結びつきの強まりなどがあげられる。これらの動向に対処しなければ、例えばマージンコールによって投げ売りが強行され、レバレッジ解消のスパイラルが引き起こされるなど、ショックを増幅させ、金融安定リスクをもたらす可能性がある。 同時に、こうした脆弱性は、規制の緩い主体が、しばしば高いレバレッジをかけて活動するようになったため、評価が困難になっています。
このため、法的形態や事業モデルに関わらず、金融安定に同様のリスクをもたらす金融仲介機関に対して、同様の厳格さを適用する規制枠組みが必要です。包括的なアプローチ、すなわち「整合性のある規制」は、たとえ伝統的な銀行業務がノンバンク金融機関(NBFI)セクターに移行したとしても、同様の規制の対象となることを確保し、結果として、危険なシステミックリスクの蓄積の可能性を低減します。例えば、すべての証券ファイナンス取引に最低限のヘアカットを義務付け、中央清算されない取引であっても適切に調整された証拠金要件を適用することなどが挙げられます。このような変更は、ストレス事象における債券市場の機能と安定性を向上させ、流動性スパイラルのリスクを低減する可能性があります。 同様に、ステーブルコインと暗号資産の規制は、技術中立で「同一の活動、同一のリスク、同一の規制結果」というアプローチに従うべきである。最も差し迫った課題は、誠実性と金融犯罪(マネーロンダリング対策/テロ資金供与対策に関する報告要件の遵守を含む)、そしてステーブルコインの裏付けである。このような包括的な規制アプローチは、既存の安全策を単に弱めるという意図しない影響を回避し、システムへの影響を慎重に考慮した上で規制調整が行われることを保証するであろう。
⑰ 金融政策
パンデミック後の経験と最近の貿易摩擦は、広範なインフレ圧力が、強い総需要だけでなく、複数の源から生じる可能性があることを示した。多くの経済における構造的変化と供給側の硬直性の高まりは、過去よりもインフレに大きな影響を与えるショックにつながる可能性がある。 それに加えて、パンデミック後のインフレ急上昇の爪痕は、インフレ期待に永続的な痕跡を残し、インフレ見通しに影響を与える可能性がある(ボックスC参照)。このような環境下では、物価安定のアンカーとしての中央銀行の役割は、さらに重要になる。米国や米国の関税に強く報復する国の中央銀行を含む一部の中央銀行にとって、これらの展開は供給ショックに類似すると予想される。したがって、金融政策にとって難しいトレードオフとなる。
現在実施中の金融緩和の範囲とペース、あるいは完全に停止するかどうかを選択するにあたり、中央銀行は、生産と雇用への影響を緩和する必要性と、予想される一時的な物価上昇が持続的なインフレ高騰に転じるリスクとを慎重にバランスさせなければならない。これまでに実施された関税の複合的な影響が明確でないこと、そして将来の潜在的な措置に関する不確実性を考えると、このトレードオフを評価することは特に困難である。物価水準への当初の影響は、関税が企業の利益率によってどの程度吸収されるか、そして為替レートの反応に左右されるが、どちらも予測が困難である。この不確実性は、インフレへの当初の影響とそのその後の軌道を増幅または緩和する可能性のある複数の要因の相互作用によってさらに複雑化している。 一方で、賃金・価格設定主体は新たなインフレショックへの対応を強化している可能性がある。特に家計は、パンデミック後の生活費の急騰を受けて、実質賃金の低下に対する許容度が低下している可能性がある。他方では、関税と不確実性が国内生産と失業に及ぼす大きなマイナス影響は、インフレ率に下押し圧力をかける可能性がある。特に世界経済の減速が顕著になった場合の商品価格の下落、そして中国などの関税の影響を受ける国やその他の黒字国からの貿易転換や価格低下によって、更なるディスインフレ圧力が生じる可能性がある。これらの緩和要因は、米国以外の国にとって特に重要である可能性が高い。関税や報復措置を課していない国では、貿易ショックは需要への悪影響に似たものとなる可能性が高い。 その結果、これらの経済においては、製造品価格の低下やコモディティ価格の低下などによるディスインフレ効果が支配的となる可能性が高い。したがって、このグループの経済、特にインフレ率が目標水準以下であるアジアの新興市場国は、金融緩和によって引き続き成長を支える余地がより大きい可能性がある。
中央銀行は、どのような行動をとるにせよ、中期的な政策方針に基づき、安定した経済環境の促進を継続すべきである。特に政治的圧力に抗して自らの使命を堅持し、明確かつ一貫性を持って意思決定を伝えることで、信頼を構築し、期待を安定させ、不確実な環境において予測可能性を提供することができる。重要なのは、中央銀行は、金融政策が何をもたらし、何をもたらし得ないかという現実的な見解に基づき、自らが十分に達成可能な目標、すなわち物価と金融の安定に焦点を当てることで、自らの独立性と信頼性を守るべきである。 今後を見据えると、より広範な供給ショック、増大する不確実性、そして予測不可能性といった特徴を持つ、急速に変化する経済環境において、金融政策の枠組みが目的に適合し続けることが重要である。現在、いくつかの主要中央銀行が行っているように、これらの枠組みの定期的な見直しは、この目的にかなうものであり、近年の経験から得られた3つの重要な教訓に基づいている。
第一に、パンデミック後のインフレ急騰と供給ショックの蔓延という経験は、インフレ目標設定に対する対称的なアプローチの必要性を浮き彫りにしている。このようなアプローチにより、中央銀行は、インフレが目標を下回るリスクや金利が実効下限値に達するリスクだけでなく、インフレ急騰のリスクにも強力に対応することができる。
第二に、不確実性が高く、かつ高まる状況において、中央銀行は機敏性と対応力を維持し、変化する経済状況に合わせて政策手段を継続的に適応させるべきである。 急激なマクロ経済変動の可能性に対処するため、柔軟な政策手段と出口戦略を優先すべきである。政策金利は引き続き主要な政策手段であるべきであるが、危機時以外におけるバランスシート調整手段の利用には慎重に取り組むべきである。特に大規模な資産購入は、収益逓減の傾向があり、元に戻すことは困難である。同様に、フォワードガイダンスは、その重要性を強調する明確なコミュニケーションとともに、慎重に活用されるべきである。
市場の機能回復のための手段は、モラルハザードの懸念を軽減し、適切な金融政策スタンスを阻害しないよう、明確な出口戦略を伴って慎重に設計されるべきである。むしろ、マクロプルーデンス政策手段は、脆弱性の蓄積を抑制し、ショックに対する金融システムの回復力を高め、それによって金利サイクル全体を通じて金融危機の発生確率を低減するという、予防的かつ補完的な役割を果たすべきである。特に新興国経済においては、インフレ目標設定と為替レートの柔軟性向上を、外的要因による不安定化を防ぐための為替介入の賢明な活用と組み合わせた枠組みから、引き続き恩恵を受けるであろう。
最後に、政策担当者は高い不確実性に直面しても謙虚であり、経済予測に内在する限界を認識しなければならない。 単一のベースライン見通しに過度に依存すると、政策担当者が見通しに対するリスクや、代替的な結果に対する潜在的な対応について効果的にコミュニケーションをとることが阻害される可能性があります。感応度分析や代替シナリオなどの情報を組み込むことで、中央銀行は意思決定の透明性を高めることができます。このコミュニケーション手法は、メッセージが薄れたり、起こりそうにない結果を過度に強調したりする可能性があるため、より複雑ですが、見通しに対するリスクや中央銀行が直面しているトレードオフについて、より微妙な理解を国民に提供することができます。
⑱ 脚注
1 、不確実性の推定影響もまた不確実である。不確実性と経済活動の関係に関するさらなる証拠については、Cascaldi-Garcia他 (2023) およびLondono他 (2025) を参照のこと。米国の貿易関税導入に伴う不確実性の増大の影響については、Burgert他 (2025) で議論されている。
2、 パンデミック中に一時的に上昇した後、生産性の伸びはパンデミック前のトレンドに戻るか、それを下回った。米国の好調なパフォーマンスは注目すべき例外であった。Igan他 (2024) を参照のこと。
3 、企業レベルの生産性成果のばらつきは、米国 (Akcigit and Ates (2021)) とその他の国 (Banerjee他 (2024)) の両方で拡大している。 格差の拡大は、先進企業の変化ではなく、主に後進企業の生産性のキャッチアップ不足に起因している(Andrews et al. (2019))。起業家精神と企業参入を阻害する人口動態の傾向も、後進企業の業績低迷の一因となっている(Hopenhayn et al. (2022) および Karahan et al. (2024))。
4 、極めて低い金利と緩和的な金融環境も、投資プロジェクトを精査するインセンティブを低下させる一因となっている(Kharroubi et al. (2023) および Gopinath et al. (2017))。金融システムが大きすぎると、高技能労働者の獲得競争が激化し、より生産性の高いセクターから人材が流出してしまう可能性がある(Cecchetti and Kharroubi (2019))。 担保が不十分なため、革新的な企業には信用が流れない可能性がある(例:Caballero et al (2025)、Kharroubi et al (2023))。
5 、増税と公共投資の低迷は、特に公的債務が高額な国において、民間主導の取り組みやイノベーションをさらに抑制してきた可能性がある。
例:Fornaro and Wolf (2025)、Cecchetti et al (2011)。
6、 新興市場経済国(EME)の成長にとって、特に人的資本のストックが最低限しかない国では、国内投資よりもFDIの方が重要である可能性がある(Borensztein et al (1998))。FDIは、投資を受ける企業と、後に従業員を雇用する企業の両方への知識移転を促進する(Poole (2013))。 労働力の移動を通じて伝播する効果に加え、新興市場経済国(EME)へのFDIは、上流部門の現地サプライヤーを通じてプラスの波及効果も生み出している(Javorcik (2004))。
7、 グローバル化は、各国間の貧困率と所得格差を大幅に縮小させた。先進国(AE)も、他の要因による成長の鈍化にもかかわらず、グローバル化がなければ所得水準が大幅に低下していたであろうことから、その恩恵を受けている。貿易摩擦の高まりをもたらした要因に関する議論については、Gambacorta et al (2025)を参照のこと。
8、 例えば、McKibbin et al (2024)を参照のこと。
9 、また、国内インフレの説明に関連性があるとされてきた経済スラックのグローバル指標(例えば、Borio and Filardo (2007)、Ciccarelli and Mojon (2010))は、今後は関連性を失う可能性があることも示唆している。
10 、経済が低インフレ体制から高インフレ体制に移行する仕組みの詳細については、Borio、Lombardi、Yetman、Zakrajsek (2023) を参照のこと。
11 、さらに、パンデミック期のインフレ急騰は、フィリップス曲線の非線形性を浮き彫りにした。インフレが急上昇すると、価格変動の頻度は調整が増加し、初期のインフレショックの伝播が増幅され、経済全体への影響が強まる。
12 、政府債務保有者の構成の影響に関する議論については、Eren et al (2023) を参照のこと。
13 、金利スワップとは、相手方が固定金利の支払いをベンチマークに連動した変動金利の支払いと交換する契約である。スワップ・スプレッドとは、スワップ・レート(固定金利)と同年限の国債利回りの差である。スワップ・レートと債券利回りは裁定によって連動しているため、コストとリスク補償を除けば、スワップ・スプレッドは通常ゼロ付近にとどまる。マイナスのスワップ・スプレッドは裁定によって解消されない。なぜなら、それは「フリーランチ」ではなく仲介コストを捕捉するからである。マイナススプレッドは、仲介機関がバランスシート上に国債を保有し、固定金利の支払者としてスワップ取引を行うことに対する報酬となる。
14 、市場活動における国債需要のシグナルに関する詳細については、株式と債券の相関、インフレ期待、および国債のコンビニエンスイールドに関するAquilina et al (2024)およびAcharya and Laarits (2023)を参照のこと。
15、 例えば、信頼できる金融政策は、財政政策が公的債務を安定化させていない場合であっても、財政赤字がインフレに与える影響を大幅に軽減する。Banerjee et al (2022)を参照のこと。
16、 関連する経路と関連する証拠の詳細な説明については、Borio、Farag、およびZampolli (2023)を参照のこと。
17 、Borio、Claessens、Schrimpf、およびTarashev (2023)を参照のこと。
18 、利回り追求は民間信用において特に激しいようです。Aramonte and Avalos (2021) を参照。
19、 Aramonte and Avalos (2021) および Avalos et al (2025) を参照。
20 、公開市場における評価損は、企業や家計の純資産を減少させ、借入制約を厳しくすることで、経済変動を増幅させることがあります。銀行融資も時価評価されませんが、銀行は不良債権引当金を計上しており、これが融資能力に悪影響を及ぼし、経済変動を増幅させる可能性もあります。
21 、銀行は、担保付ローン債務(CLO)として証券化される融資プールを集める過程で、レバレッジドローンを一時的にバランスシート上に保管します。 国内ウェアハウジング銀行に加えて、外国の機関投資家や銀行もCLOやプライベート資産のエクスポージャーを大量に保有しており、集中度が高い場合もある。Aramonte and Avalos (2019)を参照。
22、 銀行はまた、プライベート市場で活動する資産運用会社に対し、投資と投資家へのキャピタルコールの間のギャップを埋めるための「サブスクリプションライン」を提供している。これらの信用枠は通常、まさに同じ投資家の資本コミットメントによって担保されているため、信用リスクは比較的低い。さらに、投資銀行はヘッジファンド、ファミリーオフィス、その他の機関投資家にプライムブローカーサービスを提供している。これらのサービスには、取引執行、資産保管、証券貸付、レバレッジ取引、そして場合によってはリスク管理が含まれる。銀行にとって重大な市場リスクと信用リスクを意味します。2021年3月のアーケゴス・キャピタル・マネジメントの破綻は、この脆弱性を浮き彫りにしています。
23、債券市場において、先物と現物債券のわずかな価格差を利用する現物先物ベーシス取引は、近年精査されています。その他の一般的な戦略には、イールドカーブ・アービトラージとスワップ・スプレッド・アービトラージがあり、どちらもパンデミック後の市場ストレスの発生(例えば、それぞれ2021年10月と2025年4月)と関連付けられています。
金利市場、株式市場、商品市場などを含む他の多くの戦略が存在し、先物に加えて、スワップ、フォワード、オプションなどのさまざまなデリバティブ商品が含まれることがよくあります。
24 、中央清算されない相対レポ取引の70%以上は、ヘアカットゼロで取引されている(Hempel et al. (2023))。マイナスのヘアカットで取引されたレポ取引の証拠については、Hermes et al. (2025)およびLu and Wallen (2025)を参照のこと。
25、 これは、レポ市場におけるDvP(Delivery Versus Payment)セグメントであり、特定の証券を担保に決済が行われる。これらの取引では、ディーラーが非ディーラーの取引相手がFICC(Fixed Income Clearing Corporation)によって清算されるレポ・プラットフォームにアクセスできるように支援する。金額で見ると、ヘッジファンドのベーシス取引量と全く同じである(Aldasoro and Doerr (2023))。
26、 Schrimpf et al. (2020)およびAvalos and Sushko (2023)を参照のこと。 さらに、レポ連動は、あるセクターのストレスが他のセクターに急速に波及する可能性があることを意味し、これはおそらく2019年9月と2020年3月の市場ストレスの一因となり、非常に短期の資金調達で高レバレッジのポジションを資金調達することの脆弱性を浮き彫りにしました。Avalos et al (2019)およびEren et al (2020a, 2020b)を参照。
27、 例えば、Carstens (2023, 2024)を参照。
28 、成長を促進するために必要な構造改革の多くは財政的な性質のものであり、税と支出の水準と構成に長期的な変化をもたらし、政策立案者と社会が経済における政府のより広範な役割について長期的な見解で合意し、採用することを必要とします。
29 、成長を押し上げ得る構造改革については、Nagel (2025) および Draghi (2024) を参照のこと。
30、 欧州連合(EU)およびカナダに関する推計については、それぞれ IMF (2024) および Bemrose et al (2020) を参照のこと。
31 、例えば、Antolin-Diaz と Surico (近日発表予定) は、公共支出が中期的には民間部門の生産性とイノベーションを促進し、長期的には大幅かつ持続的な生産増加につながることを明らかにしている。
32 、2010年代初頭までは、公共投資は政府支出に占める割合が平均で7.5~8%であったが、この割合は過去10年間で大幅に減少し、6.5%にまで低下した。
33 、ドラギ(2024年)の報告書では、年間7,500億~8,000億ユーロ(EUのGDPの約5%)の投資を求めている。